恋の思い出 ポケットの黒い砂

私が18歳の時に初めて付き合った彼女が、東京の大学に進むため上京することになったので、見送りのために地元の駅に見送りに行った時のことです。

当時、あまり恋愛経験のなかった私は少しドキドキしながら、これが最後になるのかなと、ボンヤリと感じていました。

その日はとても寒かったので、ポケットに入っていたカイロを二人で交互に握り合っていました。それでも少しづつカイロの熱がさめてきたので、彼女は僕のポケットにカイロと両手を突っ込んでやってくる電車を待っていました。

やがて電車がやってきたので、「また連絡するよ」とが「夏休みになったら会おうね」と紋切り型の別れの言葉を並べて、彼女にさよならを言っていた時です。僕のポケットから手を出した拍子に、彼女の着ていたPコートの袖のボタンがカイロに引っかかって、カイロの中身がポケットの中に派手にこぼれてしまいました

発車のベルが鳴るなか、彼女はバツが悪そうに「ごめんね、ごめんね」と乗車扉の向こうから繰り返しました。僕は咄嗟にポケットに手を突っ込んで、真っ黒な砂を掴み、当時流行っていた千と千尋の神隠しのカオナシの真似をして扉越しに彼女に両手を差し出しました。

彼女は少し笑って、そのまま列車は出発してしまいました。駅には真っ黒な手をした僕だけが残されました。その後、彼女は東京ですぐに新しい彼氏を見つけて、僕たちは自然に別れました。それでも、あの日着ていた僕のコートには今でも少し黒い砂が残っていて、触るとまだ少しだけ温かいような気がするのです。

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2013年3月25日 | コメント/トラックバック(0) |

カテゴリー:初恋

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